こうした考察を積み上げていくと、複雑にみえる地方銀行の産業特性を把握することができる。特にこれから人口減少が加速する地方にあって、地方銀行が生き残っていくことができるかどうか、評価していくことができるようになる。
理系の方々は、あまり関心がない世界かもしれないが、実は独占禁止法は昨年、特例法が施行された。特例法が生まれた背景は、ここで説明した定量モデルによるシミュレーションが大きく貢献していた。競争が成り立たない地域(2行以上のコストを賄えるだけの収益が生まれない地域市場)は、人口減少が進めば確実に生まれ、競争を通じて顧客のベネフィットを守るという独占禁止法の考え方は、決してAll Mightyではないことを明らかにしていったからだ。ある種の法律をデザインする方法論として、定量モデル化が起点になるなんて、理系の人間から見れば興味津々なことではないか。
地方銀行に限らず、法制度を決めるうえで定量モデル化が大きく寄与する分野はいくつもある。
たとえば、電気通信業(電話サービス)である。みなさんの電話料金明細にあるユニバーサルサービス料金は、電話サービスの構造を定量モデル化した賜物である。また、電力産業は、海外に倣って発電・送電・配電・小売りに機能分解していくことが、競争ルールのように扱われるが、再生可能エネルギーがあまり活用されていなかった東日本大震災前は、東日本においては東京電力の発電キャパシティのシェアが大きすぎて機能分化しても競争が成立しない状況にあった。これは年間8,760時間の需給データの分析から明らかにされたことである。
一見、法制度はイデオロギーにもとづいて、あるいは社会のコンセンサスにもとづいて決まっていくように思われがちだ。しかし、イデオロギーやコンセンサスの方向が経済的に成立しえないものであれば、法制度を変えていくことが不可避となる。産業の定量モデル化は、経済法においては重要な起点となのである。
でも、法制度の起点が産業の定量モデル化なんて、気づいている人はほとんどいない。だからこそ、フロンティアであって、我々が組みしていく必然性があると考えています。 |