ご存知の方も多いと思いますが、Dario Amodeiが人々に警告を発しました。ざっくりいうと「新入社員が行うようなエントリーレベルの仕事に対する需要は半減する。これは今後1年から5年で現実となる。」衝撃的な内容であり、しかも実際に生成AIを開発している企業のCEOが発言したことにより、世界中で話題になっています。この記事ではこのことについて深く考えてみたいと思います。
１、Dario Amodeiの警告
彼は生成AI開発米国企業Anthropicの共同創業者でCEOです。物理学の博士号をプリンストン大学で取得しており、私がみた限り、経営者というよりも研究者のイメージが強いです。ここ２年間彼の発言は注目していましたが、比較的おとなしい発言だったと記憶しています。研究者肌にあった内容だと考えていました。ところが今回「私たちはAIの進化の速度についていけなくなっている。」「失業率は10％〜20％になる。」(1)と発言し、世界中がびっくりしたわけです。他のフロンティアモデル開発企業である OpenAIやGoogle DeepMindからそのような警告らしき発信は今までなかったように思います。それだけに今回の発言は注目を浴びました。
２、現在の生成AIの性能
現在、生成AIは確かにエントリーレベルの業務をこなす能力は十分備わっていると思います。以前ご紹介した銀行顧客クレームの6クラス判別タスクに対し、オープンソース生成AIのGoogle Gemma3は80%前後の精度を特にチューニングすること無しに達成していました。通常「このクレームはどの商品に対するものか？」と言ったレベルの比較的単純な作業は新入社員に割り当てられ、彼らはそれを通して業務を学んでいくことになっていると思います。しかしながらここまで生成AIの性能が上がってくると経営者はコストをかけて新入社員に仕事を割り当てるインセンティブを失うことは間違い無いです。半数のエントリーレベルの仕事が消えるほどのインパクトがあるかはまだ明確で無いですが、現在でも80%程度の精度が無料の生成AIで達成できるのですから、相当な影響が出ることは間違い無いと思います。
３、では、私たちは何をすれば良いか
人間のエキスパートと同等な能力を持つAGIがいつ私たちの前に登場するかは、専門家の間でも議論が分かれています。2030年前後が最も多いという気がしますが、正直はっきりしません。もしそうならば、あと5年ありますね。いずれにせよ、私たちは自らのスキルをAGIの登場に合わせる必要があります。過去のコンピュータはコンピュータ言語が無いと指示を出したり、管理することは出来ませんでした。ところが、2022年11月に登場したChatGPT以降、生成AIは言葉で指示出来ます。「プロンプト」ですね。ただし、指示といっても単純な話ではありません。生成AIの挙動を細かく制御して、自分のニーズにジャストフィットさせるという極めて微妙な作業です。従って20行〜30行を超える分量のプロンプトを書くことも珍しく無いと思います。そのための詳細な技術はここで述べることができませんが、やはり論理的にプロンプトを書くことを求められることは間違い無いです。英語や日本語で記述できるとは言っても、その習得には時間をかけて各自で訓練する必要があります。オープンソースで無料の生成AIが急速にその性能を上げているわけですから、利用者である私たちもその制御手法である「プロンプト」を役職や業種に関係なく学ぶ必要があるでしょう。
いかがでしょうか？ Dario Amodeiの警告がきっかけで議論が活発化することは良いことだと思います。前回のブログでご紹介したように、生成AIにrecursive self-improvement（反復的自己改善）が実装されて、コンピュータが 自ら自分自身を改善していく能力を身につけつつあります。今後さらに生成AIの進化は加速することでしょう。プロンプトをしっかり学んで、AGI出現に備えるタイミングが来たと考えます。AIと雇用については今後も世界中で議論が行われると思います。では今後もアップデートしていきます。Stay tuned!
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1) AI company’s CEO issues warning about mass unemployment, CNN, May 30, 2025
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